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戴きものの【南部鉄急須/鉄瓶】に込められた意図

9年ほど調理の仕事に携わっていました。現在も料理を日常的に楽しんでいます。 キッチン道具は厳選し、出来る限り1つのアイテムで色々作ります。 狭いキッチンでも使いやすいアイテムや、実際に使って「これは良かった!」と思う道具について、読者の方にリアルに伝わるよう、執筆していきます。 読んでくださる方が、少しでも「使ってみて良かった!」「参考になった」と思ってくださるような記事作りを心がけます。

コーヒー・飲料
鉄瓶

私のもとに、思いがけず南部鉄器の鉄瓶がやってきたのは、3年前の引っ越し直後のことでした。

妹が持ってきた「丁寧な暮らしアイテム」に、時間に追われ少しガサツに生きてきた私は、「鉄瓶って重たそうだし、お手入れも大変そう…」と、“無縁の長物感”を抱き、一瞬、息を呑みました。

けれど、箱を開けるとそこには漆黒のボディにストライプ模様、優雅な曲線を描く注ぎ口と持ち手がありました。光を受けるたびにしっとりとした艶が浮かび上がり、その美しさに先入観は一掃され、私は喜んで新居に迎え入れることになったのです。

このときはまだ、この鉄瓶が「自分自身を労わる時間を生み出すもの」だとは考えていませんでした。

 


■南部鉄器の鉄瓶がもたらす豊かさ


この鉄瓶の美しさは格別です。コンロに置いてあるだけでキッチンがぐっと引き締まり、暮らしに特別な空気を運んでくれます。
注ぎ口から流れる湯と、そこから立ち上る湯気の姿はとても優雅で、思わず写真を撮りたくなるほどです。

その存在感に加えて、鉄瓶で沸かしたお湯は驚くほど柔らかく、最初に緑茶を淹れたときの感動は今も忘れられません。水道水がまるで湧き水のような丸みを帯びた味に変わり、お茶やコーヒーの風味が格段に引き立つのを感じました。

特に冷え性で貧血気味だった私にとって、「鉄瓶は健康にも良いらしい」ということを後から知り、ますます愛着が湧いていきました。

 


■“重み”がもたらす安心感


実際に手に取ると、やはりズシリとした重さを感じます。でもこの重さは「扱いにくさ」ではなく「頼りがいのある重み」と表現した方が正確でしょう。南部鉄器ならではの厚みと密度が、「どっしりと構えた安心感」を与えてくれます。

この重さのおかげで、お湯が均一にじんわりと熱せられ、角のないまろやかな味わいになるのだそうです。

妹は「最初はお手入れが大変かもって迷った」と笑っていましたが、その言葉通り、鉄瓶はしっかりとお世話をしてあげるほどに味わいが増していく“一生モノの道具”です。
使うたびに湯気と一緒に漂う鉄の香り、コンロの上で堂々と鎮座する姿を見ると、暮らしにひとつ小さな“儀式”が生まれたようで、不思議と心が落ち着きます。

 


■南部鉄瓶のお手入れ:丁寧さを楽しむ時間


南部鉄瓶は、お手入れも少し特別です。お湯を沸かし終わったら中の水をしっかり捨て、弱火にかけて「空焚き」をし、内部の水分をじっくり飛ばします。このときは強火でカンカンに焼くのではなく、鉄瓶全体がほんのり温まる程度で十分です。

この一手間が、鉄瓶の内側に“湯あか”という保護膜を育て、サビの発生を防ぎます。使うほどに味わいが深まり、道具を育てる楽しさを感じることができます。

手間といっても、慣れてしまえばほんの数分。むしろこの時間さえも、ほのかに香る鉄の匂いに包まれながら日々の充実を感じ「今日もありがとう」と心の中でつぶやく、私にとっての癒しの時間です。

 

■推奨・非推奨のポイント


◎ こんな方におすすめ

  • お茶やコーヒーの時間を格上げしたい人
     → 水の味が変わるので、飲み物の風味を大切にしたい方にはぴったり。

  • 道具とともに時間を重ねる暮らしに憧れる人
     → 使うほどに味が出る“育てる楽しさ”がある。

  • インテリア性も重視する人
     → 和モダンなキッチンに置くだけで映える。

  • 冷え性や貧血が気になる人
     → 微量の鉄分補給になる点が嬉しい。

  • キャンプ・アウトドア好きな人
     → 直火OKの鉄瓶なら、焚き火の上でも使えて風情が増す。

 

✖ こんな方には向かないかも

  • 軽さを最優先する人
     → やはり一般的なケトルより重たい。

  • お手入れに時間をかけたくない人
     → 使用後の「水切り・空焚き」などの習慣が必要。

  • すぐに沸かしたい人
     → 沸騰まで多少時間がかかるため、時短を重視する方には不向き。

  • IH専用の調理器具しか使えない人
     → IH対応かどうかは商品によるので注意。

  • 高齢の方や手首が弱い方
     → 重さが負担になる場合がある。

 


■使用して感じた、贈り手の意図


引っ越しする前、私は働き過ぎで肺に穴が開き、入院していました。
今思い返すと、偏った食事や身体の冷えに無理を重ね、自分を大切にすることをすっかり忘れていたように思います。

鉄瓶は、そんな私に初めて「意図的な休息」と「小さな贅沢」を与えてくれる存在となりました。ゆっくりとお湯が沸く音に耳を澄ませる時間は、「あなたは何のために働くのか」「何に幸せを感じているのか」という問いへの答えに、静かに導いてくれるようです。

この鉄瓶が私に教えてくれたのは、現代の慌ただしさの中でも、自分を労わる時間を持ち、五感を働かせながら道具を育てる暮らしの大切さでした。

鉄瓶と私は、本来出会うことのなかった存在かもしれません。けれど、もし今「自分を大切にできていない」と感じているなら、あるいは「自分を大切にしてほしい誰か」がそばにいるなら、この重みを手にしてみることで、新しい豊かさに気づけるかもしれません。

 

9年ほど調理の仕事に携わっていました。現在も料理を日常的に楽しんでいます。 キッチン道具は厳選し、出来る限り1つのアイテムで色々作ります。 狭いキッチンでも使いやすいアイテムや、実際に使って「これは良かった!」と思う道具について、読者の方にリアルに伝わるよう、執筆していきます。 読んでくださる方が、少しでも「使ってみて良かった!」「参考になった」と思ってくださるような記事作りを心がけます。

作成日: 2025-07-06 05:19:28

更新日: 2025-07-06 05:19:28