私のもとに、思いがけず南部鉄器の鉄瓶がやってきたのは、3年前の引っ越し直後のことでした。 妹が持ってきた「丁寧な暮らしアイテム」に、時間に追われ少しガサツに生きてきた私は、「鉄瓶って重たそうだし、お手入れも大変そう…」と、“無縁の長物感”を抱き、一瞬、息を呑みました。 けれど、箱を開けるとそこには漆黒のボディにストライプ模様、優雅な曲線を描く注ぎ口と持ち手がありました。光を受けるたびにしっとりとした艶が浮かび上がり、その美しさに先入観は一掃され、私は喜んで新居に迎え入れることになったのです。 このときはまだ、この鉄瓶が「自分自身を労わる時間を生み出すもの」だとは考えていませんでした。 ■南部鉄器の鉄瓶がもたらす豊かさ この鉄瓶の美しさは格別です。コンロに置いてあるだけでキッチンがぐっと引き締まり、暮らしに特別な空気を運んでくれます。 注ぎ口から流れる湯と、そこから立ち上る湯気の姿はとても優雅で、思わず写真を撮りたくなるほどです。 その存在感に加えて、鉄瓶で沸かしたお湯は驚くほど柔らかく、最初に緑茶を淹れたときの感動は今も忘れられません。水道水がまるで湧き水のような丸みを帯びた味に変わり、お茶やコーヒーの風味が格段に引き立つのを感じました。 特に冷え性で貧血気味だった私にとって、「鉄瓶は健康にも良いらしい」ということを後から知り、ますます愛着が湧いていきました。 ■“重み”がもたらす安心感 実際に手に取ると、やはりズシリとした重さを感じます...